湧水について

「富士山湧水マップ」の目的

 富士山(3,776m)は、何度も噴火を繰り返し、今から約1万年前に現在のような形になりました。噴火のたびに噴き出た溶岩の流れは、水を通しやすい層と通しにくい層がいくつも重なりながら40kmも離れた三島までやってきました(三島溶岩流)。富士山やその周辺に降った雨は地下にしみ込み、新たにしみ込んでくる雪解け水などの圧力により下へ押し出され、長い時間をかけて溶岩流の先端にある三島で湧き出します。年間を通して水温が16℃ぐらいと変わらないため、夏は冷たく、冬は温かく感じるうえ、地下にあったバナジウム等のミネラルを含んでいるので、おいしい水として評判です。

富士山を水源とする湧水は、静岡県・山梨県内に多数存在していますが、周辺の開発行為の進展による湧水地の減少や改変、水質悪化などの環境問題、被害が発生しており、富士山を水源とする川や海の資源保護のためにも湧水地の保全対策が大きな課題となっています。

グラウンドワーク三島では、平成18・19(2006・2007)年度、「富士山湧水インストラクター」の育成、富士山麓の湧水地調査、「富士山湧水マップ(紙媒体とホームページ)」の作成・開設による湧水地情報の発信などをとおして、富士山からの湧水の重要性や貴重性、文化・歴史性、湧水保護活動などを進めてきました。

しかし、富士山の世界文化遺産登録から数年が経過した現在、富士山の登山者数や富士山地域の観光入込客数の急増によるオーバーユースが発生するなど、富士山への環境負荷はますます増大しており、富士山周辺に点在する湧水地は存亡の危機にさらされています。 そこで平成25(2013)年度には、平成18・19(2006・2007)年度に調査した富士山麓の湧水地の再調査と「富士山湧水マップ」の更新を実施しました。

続く平成26(2014)年度には、平成25(2013)年度までに調査した湧水地の豊水期(夏季)と渇水期(冬季)の2回に分けた再調査と、「富士山湧水マップ」の更新を実施し、富士山の湧水地の継続的な実態把握と情報発信力のさらなる強化を進めました。

これらの活動をとおして、世界文化遺産に登録された富士山の環境整備を図り、「水の山・富士山」の宝物・財産である湧水地の保全体制をより強固なものにすることを目的としています。

富士山周辺の湧水について

1.はじめに

NPO法人グラウンドワーク三島は、富士山の湧水地の環境資源としての重要性や保全の必要性を、地域住民や行政・企業・小中学生など多くの方々に理解してもらうための指導者の育成を目的に、平成17(2006)年、「富士山湧水インストラクター養成講座』を開講しました。

富士山の湧水のメカニズムや生態系などの専門的知識を有する有識者や実践者が講師となった講座を全16回(講義11回、現場研修5回)開講し、12回以上出席した53名に、「富士山湧水インストラクター認定証書』を授与しました。

平成25・26(2013・2014)年度には、湧水地調査を担う新たな実践者の育成を目的として、大学生などの若者を主対象に、講義3回、実学1回の全4回からなる「富士山湧水ヤングインストラクター養成講座』を各年度ともに開校しました。

2.富士山周辺の湧水池の実態調査
  1. 調査概要
  2. 平成18(2006)・19(2007)年度の湧水地調査は、富士山湧水インストラクターを、富士山の東麓・西麓・南麓・北麓でグループ分けし、名称、場所、湧水流量、水質、生物情報、利用状況等を調査しました。調査地点は、「静岡県のわき水~湧水版レッドデータ~』を基に、静岡県市町村の担当窓口での聞き取り調査や、沼津市文化財センターや富士山資料館からも貴重な情報を提供いただき選定しました。

    水質調査は、パックテストや専用の測定器を使用し、COD、アンモニア、亜硝酸、硝酸、pH、全硬度、水温、溶存酸素、電気伝導度※の9項目を調査したほか、色、におい、気温も加えました。湧水地及び近隣の写真も撮影しました。

    平成25年度調査では、前回の調査地点の湧水状況及び水質の確認を主に行いました。水質調査は、色、にごり、においといった外観の調査と、COD、pH、全硬度、電気伝導度といった項目の調査を行いました。

    平成26年度調査では、湧水地の経年的な変化を把握するため、平成25年度調査と同様、これまで調査を行ってきた箇所の継続的な水質調査(外観、COD、pH、全硬度、硝酸、電気伝導度)を行いました。さらに、豊水期(夏季)と渇水期(冬季)の2回に分けて調査を行うことで、湧水量を調べることが可能な箇所では、その変化を把握しました。

  3. 静岡県の湧水
  4. 「静岡県のわき水~湧水版レッドデータ~』によると、伊豆を除く県東部には、200を越える湧水が点在しています。

    静岡県内全体では800箇所以上の湧水がありますが、調査時に無くなっていた湧水は200箇所近くあり、県東部の減少傾向は、県西部に比べて比較的ゆるやかであるといわれています。

  5. 富士山東麓の湧水(静岡県:裾野市、御殿場市、小山町)
  6. 黄瀬川に流れることが多い裾野市の湧水では、水ケ塚水源地、田向の水源地、景ヶ島渓谷、平山水源地清水湧水、不動湧水、芦ノ湖スカイライン沿いの命の泉を調査しました。

    御殿場市では、御殿場駅を境に黄瀬川に南下するものと鮎沢川に流れるものに分かれます。
    二枚橋の滝不動、中清水水神公園、二子水神湧水、二子の湧水、大太郎湧水、中畑湧水、柴怒田湧水を調査しました。

    ほぼ鮎沢川に流れる小山町の湧水では、須走湧水、須川の湧水群、上野栃の木、湯船八幡神社、金時神社、桑木山久荘を調査しました。

  7. 富士山南麓の湧水(静岡県:沼津市、清水町、長泉町)、三島市の湧水
  8. 沼津市では、根方街道沿いの愛鷹山系の日吉神社穀水、原の湧水公園、東熊堂、青野の2つの湧水、沼田と、天城山系の内浦重寺、大平大井を調査しました。

    清水町と長泉町では、愛鷹水神社、谷津、南一色、窪の湧水に柿田川、丸池です。柿田川は上流、中流、下流と3箇所に分けています。

    三島市では、小浜池、白滝公園、菰池、鏡池、三島梅花藻の里、雷井戸、水の苑緑地、境川・清住緑地と、箱根山系の竹倉・屏風岩、竹倉湧水、小沢、川原ケ谷、滝川神社を調査しました。

  9. 富士山西麓の湧水(静岡県:富士市、富士宮市)
  10. 富士市の湧水は「ロマンと泉の郷』に載っている湧水を中心に調査しました。 調査地は、五社の宮神社の東・南側、永明寺取水路、滝川公会堂、滝不動、かがみ石公園、題唱寺北側、玉泉寺東側、吉永第一小学校北側、医王寺前、長学寺前と田宿川沿いからおやしきの湧水、山恭製紙北側、旧図書館南側、市の調査地点から宇東川、曾比奈、永明寺です。

    富士宮市の湧水は「富士宮の保存湧水』を中心に調査しました。
    調査地は、よしま池、上小泉八幡宮、滝の上集会所東側、山下パルプ北側、出水八幡宮境内、陣場の滝、五斗目木橋西側、山口養鱒西側、陣場の滝東側、向山荘跡東側、猪之頭伊勢大明神宮、猪之頭橋北側、星山放水路東側、杉田ゴルフクラブ南西、中橋北東に天然記念物である湧玉池、白糸の滝、おびん水、芝川源流です。地図上には、登山道2合目も含めました。

  11. 富士山北麓の湧水(山梨県:富士河口湖町、山中湖村、忍野村)
  12. 富士山北麓の湧水の代表は忍野八海で、湧池、濁池、鏡池、菖蒲池、銚子池、底抜池、お釜池、出口池があります。

    富士五湖の湖底にも湧水の噴出口があるといわれており、本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖、さらに西湖北岸の津原キャンプ場の湧水も加えました。

    そのほか、富士スバルライン沿いの富士山北麓に馬返、泉端、山中湖・忍野からの桂川沿いに猫穴、河口湖からの宮川沿いに新倉、月江寺、鐘ケ淵、桂川との合流点付近とその下流の夏狩、田原滝等に、少量ながら湧水が認められました。

  13. 平成25(2013)年度調査について
  14. 山梨県側の富士山北麓を中心に、上記の湧水地に加え16箇所の湧水地を追加調査しました。

    ▶︎ 西麓…富士宮市の登山道二合目、猪之頭橋南側、大中里1、富士市の本国寺前、法雲寺

    ▶︎ 北麓…富士吉田市の泉瑞、西町出水湧水、杓子山湧水不動湯、月江寺、都留市の永寿院、太郎・次郎の滝、長慶薬師霊命水源、西桂町の浅間神社の湧水、忍野村の桂川川岸双子の池、浅池、山中湖村の山中湖村山中1

  15. 平成26(2014)年度調査について
  16. 豊水期(夏季)と渇水期(冬季)の2回に分けた調査を行いました。
    また、平成25年度までに調査した湧水地に加え25箇所の湧水地を追加調査しました。

    ▶︎ 東麓…裾野市の頼朝の井戸の森、小山町の金太郎の水、道の駅すばしり

    ▶︎ 南麓…清水町の智方神社、長泉町の南一色養魚場、沼津市の青野-3、青野-4、興国寺跡、中沢田、三島市の千貫樋下、竹倉湧水-2

    ▶︎ 西麓…富士市の誠信少年少女の家東、富士宮市の淀師・渋沢

    ▶︎ 北麓…富士吉田市の杓子山、いのちの水、瀧の口湧水、富士パインズパーク、富士山のめぐみ、都留市の熊太郎水源地、鳴沢村の不尽の名水、渓山荘、上夏狩湧水地、菊池ワサビ田、下夏狩湧水地、柴崎養魚場


※電気伝導度(EC;Electric Conductivity)

電気伝導率や電気導電率、単に伝導率や導電率とも呼びます。純粋な水は電気を通しませんが、水に溶け込んでいる無機イオンの量が多いと電気が通りやすくなります。この水の電気の通りやすさを示す値が電気伝導度です。一般に、電気伝導度が高いほど水中の不純物(無機イオン)が多いことを示すため、水の純粋さを表すためによく使用されます。ただ、食塩などが入っても電気伝導度は高くなるため、不純物が多い=汚れている、という解釈は必ずしも適当ではありません。また、電気伝導度は、電気伝導度計という専用の測定器を使って調査しました。

3.参考文献
  1. 『静岡県のわき水~湧水版レッドデータ~』 静岡県環境部水環境室
  2. 『静岡県湧水イラストマップ』 静岡県水利用室
  3. 『三島湧水マップ2007年版』 三島ゆうすい会、NPO法人グラウンドワーク三島
  4. 『ウォーキングコース ロマンと泉の郷』 富士市
  5. 『富士宮の保存湧水』 富士宮市
  6. 『静岡県富士山麓周辺の湧泉について』 静岡県生活環境部資源エネルギー課
  7. 『静岡県(山梨県)の代表的湧水』 環境省
  8. 『静岡県の湧き水100』 静岡新聞社
  9. 『富士山 その自然のすべて』 同文書院
  10. 『どこに消えたか三島の湧水』 三島自然を守る会
  11. 『忍野村観光案内』 忍野村役場地域振興課、忍野村観光協会
  12. 『【新版】だれでもできるパックテストで環境しらべ』 合同出版
  13. 『身近な水の環境科学[実習・測定編]』 朝倉書店
4.あとがき

今後も富士山麓の湧水地調査を継続・拡大・発展させて、湧水の水質や湧水量、保全状況等の経年的・季節的な変化や、さらなる湧水地の発掘・発見を中心に、富士山麓の湧水の動態を把握すると共に、公開できるデータを増やしていきたいと考えています。

富士山の湧水地の情報提供並びにご意見等ありましたら、随時お知らせください。